若杉光夫監督映画「危険な女」(1959年)
の劇音楽より
いくつかの音楽表現について触れていきます。
劇音楽にジャズが多用された時代の作品
この映画の音楽は
ほぼ全編ジャズによる音楽演出となっています。
唯一の箇所、
むしろジャズが流れていそうな「バーの店内BGM(状況内音楽)」には 〈※補足あり〉
あえてジャズではない音楽が付けられています。
「映画の音楽 LA MUSIQUE AU CINEMA」著者 ミシェル・シオン
という書籍の中に
次のような文章があります。
(以下、抜粋)
当時(1950年台後半)の観客にとって、ジャズの音は新しいものではなく、
カフェ、レコード、テレビのシリーズ物の中でも流れていた
ある「時代の雰囲気」を反映していた。
それに、以前から、映画に舞台のムードを醸しだすために、
レストラン、バー、カフェ、夜会の場面でジャズを使うことは珍しくなかった。
(抜粋終わり)
特にリズムセクションが入ったジャズの場合、
「音楽が映像の動きに従属するようにかなり細かく変化させて付けられる方法」
によらないケースの方が多い印象。
というのも、
リズムセクションは一定のリズムを刻んでいるため、
オーケストラなど西洋楽器のアンサンブルに比べると
細かくテンポを変化させたりといった動作がおこないにくいからです。
本作でもやはりこれに該当します。
「芳子(渡辺美佐子)が夫の死亡通知を受け取った瞬間に音楽で衝撃音を入れる」
という1箇所を除いて
他はすべて、
音楽と映像の動きが(音楽の「入りと終わりのタイミング」以外は)リンクしていません。
したがって、
ジャズによる音楽は
どちらかというと
映画全体のムードを出すような役割に徹しています。
このような
「劇音楽にジャズが多用される」という演出は
特に国内のこの時代の作品には多く聴かれる傾向があります。
例:篠田正浩監督映画「乾いた湖」(1960年) 他多数
登場人物が日常的に口ずさむ歌は、音楽のようには聴こえない
「危険な女」の物語中盤で
登場人物の一人が
歌を口ずさんでいる場面があります。
同時に「通常の劇音楽としてのジャズ(状況外音楽)」
も流れているため
「状況外音楽(ジャズ)+ 状況内音楽(口ずさむ歌)」
と解釈するのが普通でしょう。
しかし、
「伴奏なしで歌を日常的に口ずさんでいる」
というのは
映画の観客側は音楽として認識しないように感じます。
したがって、
「状況外音楽(ジャズ)+ 一種のセリフ」
のようにさえ解釈できるでしょう。
若杉光夫監督映画「危険な女」(1959年)は
現在、「Amazon Prime Video」で観ることができます。
(視聴時期によっては、配信終了している可能性もあります。)
» Amazon Prime Video「30日間の無料体験」はこちら
◉ 危険な女