今回は、
溝口健二監督映画「山椒大夫」(1954年)
を題材に
いくつかの音楽表現について
取り上げていきます。
■映画「山椒大夫」(1954年)の音楽演出
「2つの別々の音楽が同居しているような、1つの音楽」へと清算
本編10:40頃から、2つの音楽が出てきます。
「東洋の笛」がメインで聴こえてきますが
よく聴くと、背景にとても静かな別の音楽が流れています。
その後「東洋の笛」だけになり(本編12:10頃〜)、
さらにその後、
先ほど背景にいたBGMが主体となり、笛がフェードアウト(本編12:50頃〜)。
「東洋の笛」は、
「背景の音楽」とは調和しない
まったく別の音楽内容を演奏していますので
これらは別々の音楽と考えていいでしょう。
「(笛も含めた)東洋の楽器」と「調和しない、別の音楽」
を同時に使用していくこのやり方(詳述はしませんが、雅楽の特徴が発想の元です。)は
本編で何度も出てきます。
何度も出てきた上で、ラストシーンへ。
ラストシーンでは
これら2種の音楽の存在感が「同等」に。
つまり、
「2つの別々の音楽が同居しているような、1つの音楽」
になって映画を締めくくります。
ここまでは、
「2つの別々の音楽が同居しているような、1つの音楽」ではなく、
単純に
「同時に流れている、2つの別々の音楽」
という印象だったので、
最後に整理・清算された印象があります。
屋外から実際に聴こえているように感じる、状況 ”外” 音楽
本編21:10頃から
屋内の場面がありますが、
ここでも「東洋の笛」の音が使われています。
(直前のシーンの音楽が薄くなり、笛のソロへ変化。)
”かなり小さな音” で、
それも途中までは ”ソロ” で使われているので
屋外から実際に聴こえているように感じなくもありません(状況内音楽)。
実際は「状況外音楽」で、通常の劇伴ですが…。
このように聴こえる理由は、大きく以下の2点です。
◉ ソロなので、屋外で誰かが演奏していると想像しても違和感ないから
仮にここで鳴っている音が
「オーケストラ」だったとしたら
とうぜん、屋外で誰かが演奏しているとは思いもしません。
また、人間が演奏していてもおかしくない
当時の時代設定にあった楽器の音だからこそ
屋外で誰かが演奏していると想像しても違和感ないわけです。
繰り返しますが、
結局のところ
「状況内音楽に聴こえる、状況外音楽」
となっています。
「東洋の楽器の音」と「東洋風の洋楽器の音」
この作品では、
明らかに箏に似せてハープの音を使用している音楽があったりと
「東洋の楽器を使わずして、東洋の色を表現している表現」
が複数あります。
一方、通常の東洋の楽器も出てくるので
あえて「東洋の楽器の音」と「東洋風の洋楽器の音」
を使い分けていることになります。
また、
本編70:50頃からの場面では
「玉木(田中絹代)の声による東洋的な歌詞の歌(状況内音楽に見せかけた、状況外音楽)」を
「箏を思わせる音遣いによるハープ」
が伴奏しています。
映像に対する音楽演出として特別な効果は感じませんが、
音楽的にとても美しい場面となっています。
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