今回は、
新藤兼人監督映画「愛妻物語」(1951年)
を題材に
同じ既存歌を4パターンに使い分けた音楽演出について
取り上げていきます。
幸せを表現する、状況内音楽としての「浜辺の歌」
本編序盤、
新婚の石川孝子(乙羽信子)と沼崎敬太(宇野重吉)
の幸せが伝わってくる場面。
敬太と会話をしている孝子が
ブランコに乗りながら「浜辺の歌」を鼻歌で歌っています(状況内音楽)。
純粋に「幸せを表現している音楽」と考えていいでしょう。
これを踏まえた上で、次の項目と比較してみます。
心配を紛らわす、状況内音楽としての「浜辺の歌」
本編63:20頃から、
再び、孝子が「浜辺の歌」を鼻歌で歌っています(状況内音楽)。
しかし、これは先ほどの例とは意味合いが異なり、
自分の心配を紛らわすための鼻歌。
今度こそ坂口監督(滝沢修)に
シナリオを認められないと先がないという
背水の陣の状態で出かけている夫の帰りを待っている孝子は
心配で仕方がありません。
その心配の様子は以下のような表現で理解できます。
◉ 18:10という遅い時間を示す時計を映した映像と、リアルな秒針の音
◉ その時計を不安げな表情で見つめる孝子の顔
つまり、
夫の帰りを待つ心配を紛らわすために
あえて明るい曲調の「浜辺の歌」を歌ったということです。
回想を意味する、状況外音楽としての「浜辺の歌」
終盤である本編94:40頃から、
再び、孝子の歌う「浜辺の歌」が聴こえてきます。
一瞬、また状況内音楽かと思いがちですが、
直前に孝子は亡くなっているので
回想としてのBGM、つまり「状況外音楽」。
夫である敬太が
妻と暮らした家を見渡しながら
あらゆることを想い出している。
ここで回想的にこの楽曲が使われたということは
敬太にとって
孝子の歌う「浜辺の歌」も
この家における想い出のひとつなのでしょう。
もしかしたら
そこまでの意図はなく、
単純に孝子に関連する音楽として使っただけかもしれませんが…。
総まとめ、状況外音楽としての「浜辺の歌」
ラスト1分程度で、
本編の総まとめのような意味合いで
オーケストラアレンジされた「浜辺の歌」が流れます。
もちろん、通常の状況外音楽。
「しっかり頑張ってね。苦しい時には笑うといいわ。」
という、夫へ向けた亡き孝子のセリフと共に
シンプルながらも感動的なクライマックスを作り出しています。
それまでにも何度も使われてきた「浜辺の歌」。
少しづつメロディを積んでいくことを利用して
山場でも使用することで、
音楽で感動を生み出すことにつながっています。
「繰り返し同じメロディを聴くことで、聴き手の中にその部分に対する愛着がでやすい」
からです。
「覚えやすい」と言いますか、
誰でも知っている歌曲を使ったことで
その効果がいっそう大きなものとなりました。
新藤兼人監督映画「愛妻物語」(1951年)は
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