今回は、
吉村公三郎監督映画「夜の蝶」(1957年)
を題材に
未だ完成していない曲を使った状況内音楽について
取り上げていきます。
秀二(船越英二)は音楽学校で演奏を修めており
ヴァイオリン弾きになることが夢でした。
しかし、
戦争による怪我で左手の指がうまく動かなくなり
「せめて美しい曲が作りたい」と思い
作曲へ転向します。
秀二が自宅で作曲をしている場面は
何箇所か出てきます。
こじんまりとした部屋に縦型ピアノを置いて
弾いて納得しては五線紙へ書き込む、
この繰り返しで作曲をしている。
ここで注目すべきなのは、
「秀二はピアノを弾きながら音を探って作る作曲法をとっている」
ということです。
したがって、
作曲をしているときの音そのものが
この映画にとっては「状況内音楽」として響きます。
それも、
作曲中の「未完成の曲を使った状況内音楽」として。
ピアノを弾いては五線紙へ書き込んでいるので
聴こえてくる音楽は
「中断されては再開されて…」の繰り返し。
通常の状況内音楽では、
すでに完成されている音楽作品が
店内BGMや生演奏として使用されることのほうが
圧倒的多数ということもあり、
割と珍しいそれの用いられ方となっています。
作曲シーンならでは。
ちなみに、
「楽器を一切使わずに机の五線紙へ向かって作曲していくタイプの作曲家」
もいます。
しかしそれでは、
映像で楽譜を明確に映さない限り
映画作品として初めて観る観客には
文字を書いているのか楽譜を書いているのかが分かりにくい。
秀二が
「ピアノを弾きながら音を探って作る作曲法をとっている」
というのは
映像作品向きの人物設定と言えます。
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