劇作品の音楽における「繰り返し」

本記事は以前に「リアルサウンド」で執筆した自身の原稿をもとにしています。

 

「劇作品」で流れる背景音楽には「繰り返し」が多くあります。
繰り返しの定義は、

1)曲の中で、短いブロック単位を繰り返し用いる場合
2)主要なテーマのメロディを同じ映像作品の中の他の背景音楽で用いる場合

大きく捉えるとこの2種類。
まずはそれぞれの特徴について記述します。

 

短いブロック単位の反復

J-popなどの「歌モノ」では
「Aメロ→サビ」、もしくは「Aメロ→Bメロ→サビ」、
という要素に加え、
イントロ、ターンバック、インタールード、エンディング
などが入るケースが多くあります。
しかし、
劇音楽では「A→A→A」、といったように、
1つのブロックのみを繰り返す場合も多く存在し、
3ブロック以上の様々な要素が入った楽曲は意外と少ない。
その傾向は劇作品の音楽の中でも特に「映画の背景音楽」で顕著です。
(「溜め録り」ではないという理由から。)

1曲の中で、短いブロック単位を繰り返し用いることは、

「繰り返し同じメロディを聴くことで、
聴き手の中にその部分に対する愛着が湧きやすい」
「1曲の中で部分的に取り出して使用しやすいため、
選曲において重宝する」

などの利点が挙げられます。
そして、あくまで劇作品の音楽として音楽を機能させなければならないので、
曲が進むにつれて新しい要素を次々と出すことで、
聴衆の意識を劇ではなく音楽の方に誘導することは避けたい
という意図で楽曲をつくるケースも少なくありません。

 

主要テーマの反復

続いて「主要なテーマのメロディを同じ劇作品の中の他の楽曲で用いる場合」についてですが、
同じ劇作品の背景音楽では、
テーマのメロディの一部を使って他の曲を作る
テーマアレンジ」という手法が頻繁に用いられます。
この手法を使うことによる利点は
「1つの劇作品の中で音楽全体に統一感を出すことが出来る」
ということです。
こと映画の背景音楽では、
2つや3つだけのテーマをもとに
大半の楽曲ができているケースも多く存在します。

有名どころの具体例として、
ジュゼッペ・トルナトーレ監督映画「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988年)の音楽は
いくつかのテーマが巧みにアレンジされて
いくつもの楽曲が出来上がっている非常に優れた例。

 

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反復がもたらす他の効果

繰り返しがもたらす他の利点として、
「劇中で繰り返し聴いていたテーマが物語のクライマックスで感動的なアレンジで使われると、大きな感動を呼ぶ効果が期待出来る」
ということも挙げられます。
劇音楽関係者も
「少しづつメロディを積んでいくことを利用して山場でも使用することで、音楽で感動を生み出すことが出来る」
と話す人が多くいらっしゃいます。

テレビアニメやテレビドラマなどに多い「連続もの」の映像作品だけでなく、
「単発もの」である映画や「舞台の音楽」「音声ドラマの音楽」などでもこの例は見られます。

これは前項でご覧にいれた、
「繰り返し同じメロディを聴くことで、聴き手の中にその部分に対する愛着がでやすい」
という内容にも関連しており、
はじめに記述した 1)と2)がバランス良く取り入れられていることが、
作品に相乗効果をもたらす劇音楽のスタンダードなつくられ方といえます。