飲食関係の状況内の音が多く使われた夫婦もの

 

今回は、
成瀬巳喜男監督映画「妻」(1953年)
を題材に
飲食関係の状況内の音
について取り上げていきます。

本作はいわゆる「夫婦もの」の映画ですが、
その中に「飲食関係の状況内の音」が非常に多く聴かれることが
特徴のひとつとなっています。
以下、まとめたものを見てください。

 


 

本編13分過ぎ【中川十一(上原謙)と中川美種子(高峰三枝子)との自宅での場面】
◉ 中川美種子がお茶をそそぐ音、すする音、せんべいをかじる音

本編14分過ぎ【中川十一と相良房子(丹阿弥谷津子)との喫茶店「らんぶる」での場面】
◉ 店員が注文の飲み物のティーカップをテーブルへ置く音
◉ 中川十一と相良房子が砂糖とミルクを入れる音、ティースプーンでかき回して皿へ置く音、
飲む音、カップを皿へ置く音

本編17分過ぎ【中川十一と中川美種子との自宅での場面】
◉ 中川美種子が茶をそそぐ音、お茶で口をゆすいで飲む音、湯呑みをチャブ台へ置く音、
箸を茶碗へぶつける音、茶碗をチャブ台へ置く音
◉ 中川十一がお茶を飲む音、湯呑みをチャブ台へ置く音

本編21分過ぎ【中川十一と中川美種子+松山浩久(伊豆肇)との中川自宅での場面】
◉ 広島の酒を注ぎ合う音、ビンをコップへぶつける音、コップをチャブ台へ置く音
◉ 中川美種子が松山浩久のもってきた天ぷら屋のお土産を開封する音

本編24分過ぎ【中川美種子とその友人との友人宅での場面】
◉ 友人がティータイムの用意をする音

本編28分過ぎ【中川十一と相良房子との喫茶店「らんぶる」での場面】
◉ 中川十一がティースプーンを皿に置く音

本編29分過ぎ【中川美種子と谷村忠(三国連太郎)との中川自宅での場面】
◉ 中川美種子が松山浩久のもってきたお土産を食べる音
◉ 谷村忠が魚(くさや?)を焼いている音、食べる音

本編37分過ぎ【中川美種子とその友人との中川自宅での場面】
◉ 中川美種子がティーカップをチャブ台へ置く音

本編40分過ぎ【中川十一と中川美種子との自宅での場面】
◉ 食事にホコリが被らないように上へかけてあった新聞紙を中川美種子がとる音

本編42分過ぎ【中川美種子と谷村忠と新村良美(新珠三千代)との中川自宅での場面】
◉ 新村良美がティーカップをチャブ台へ置く音

本編42分過ぎ【中川十一と相良房子とその子供との旅館での場面】
◉ 中川十一がフタ付き湯呑みのフタをローテーブルへ置く音

本編50分過ぎ【中川十一と中川美種子との自宅での場面】
◉ 中川美種子が笹巻きの笹を開く音、中身を皿へ盛り付ける音、その箸をチャブ台へ置く音

本編53分過ぎ【中川美種子とその友人との飲食店での場面】
◉ ふたりがお寿司を食べる音、中川美種子が茶を飲む音

本編56分過ぎ【中川十一と谷村忠との中川自宅での場面】
◉ 谷村忠がショットグラスへウイスキーそそぐ音、ウィスキーボトルをチャブ台へ置く音
◉ 中川十一がショットグラスをチャブ台へ置く音、ふたりの飲む音

本編65分過ぎ【中川十一と中川美種子とその友人との中川自宅での場面】
◉ 友人が自分がお土産としてもってきたヒラメを袋へ戻し入れる音
◉ 中川十一が出刃包丁を研ぐ音

本編70分過ぎ【中川十一と谷村忠との中川自宅での場面】
◉ 谷村忠がヒラメを食べる音、コップをチャブ台へ置く音
◉ 中川十一がもっているビール瓶と谷村忠のもっているコップがぶつかる音
◉ 中川十一が自分のビールをそそぐ音、ビール瓶をチャブ台へ置く音、酔ってしゃっくりをする音

本編76分過ぎ【中川十一と相良房子との喫茶店「らんぶる」での場面】
◉ 店員がソーダ水の入ったコップをテーブルへ置く音

本編77分過ぎ【中川美種子が実家で家族と過ごしている場面】
◉ 新村妙子(坪内美子)が食事が終わった食器をさげている音

本編80分過ぎ【中川美種子が実家で家族と過ごしている場面】
◉ 新村妙子がお茶をそそぐ音

本編88分過ぎ【相良房子と中川美種子との休憩喫茶店「つばめ」での場面】
◉ 店員が水が入ったコップをテーブルへ置く音、紅茶が入ったティーカップをテーブルへ置く音

本編93分過ぎ【中川美種子と谷村忠(三国連太郎)との中川自宅での場面】
◉ 谷村忠がおかしを食べている音、お菓子の紙を畳む音、その紙で口をふく音

本編94分過ぎ【中川美種子がひとりで自宅にいる場面】
◉ 食器を片付けている音

 


 

水が入ったコップ、お茶が入った湯呑み、お茶が入ったフタ付き湯呑み、
紅茶が入ったティーカップ、ビールが入ったコップ、広島の酒が入ったコップ、
ウイスキーが入ったショットグラス、
など容器の種類が多様なうえに
飲食をするさまざまな場面での質の異なった台へそれらが置かれていく。
「飲み物」という観点からながめてみるだけでも
ほんとうに多種な音が出てきており、
容器を置くときの音ひとつとっても
その都度、異なる音色が響きます。

加えて、飲み物以外にまつわる音も豊富。
金属音、擦る音、ペーパーの乾いた音、
ぶつけるときの音、液体音、調理しているときの音、
人間が体内へ入れるときに生ずる音、
体内へ入れたことで人間から出る声やしゃっくり、
など、他にもさまざまな音が発生していることが分かりますね。

飲食が題材となっている映画ではありませんが、
「飲食関係の状況内の音」がここまで使われているのには
おそらく、演出として意識されていたのかもしれません。

特に古典映画の中には
人間の生活と結びついた音が
ていねいに描かれている作品が多いように感じるので、
耳を澄ますと
このような少しずれた観点からも楽しむことができます。

 


 

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