感情移入を狙った音楽

本記事は以前に「リアルサウンド」で執筆した自身の原稿をもとにしています。

 

劇作品で付加される感情移入を狙った音楽は、
説明的な音楽」の一種です。
例えば、映像の音楽により“映像作品の視聴者に感情移入をさせる役割”とは、
恋愛映画を見た女性が少し浮足立った気分で出てきたり、
家族についての映画を見た人が目を潤ませたり、
任侠映画を見た男性が肩で風を切ってでてくるなど、
行動になって現れるくらいの感情移入を補佐することにあります。

感情移入を狙った映像音楽としては、

「悲しい」「楽しい」などの
日常のシーンで比較的起こりやすい感情を音楽で表現する場合
「驚愕」「恐怖」などの
ある種特別な時に起こる感情を音楽で表現する場合

など様々です。

 

「悲しい」「楽しい」といった感情の表現

「悲しい」「楽しい」といった感情を表現する際は、
その雰囲気を出すためにコード進行などを工夫することは
作曲をする段階で当然行われますが、
別の有効な手法として
「主観的な時間感覚に基づいて音楽を構成する」
というテクニックを使うこともあります。
悲しい時は時間が過ぎるのが遅く感じたり、
楽しい時には時間が過ぎるのが速く感じる、
などといった人間の感覚を取り入れるということ。
つまり、
悲しさを楽曲で表現したい場合はテンポの遅い楽曲にし、
楽しさを表現したい場合はテンポの速い楽曲にすることで、
意図した雰囲気を聴衆が感じやすくなります。
これは全てに当てはまるわけではありませんが、
多くの感情を表現する背景音楽は
主観的な時間感覚に基づいて作曲されています。

 

「驚愕」「恐怖」といった感情の表現

「驚愕」「恐怖」を表現する際に多く用いられるのが
「無調音楽」です。
無調音楽は、奇怪な雰囲気などを表現するのにも適しており、
実際にも、
リドリー・スコット監督映画「エイリアン」(1979年)
などを始めとするSFホラー映画や、
松本俊夫監督映画など「アート系映画」と言われる作品の背景音楽では
無調音楽が数多く聴かれる傾向にあります。

(誤解を招かないために補足しておきますが、
いわゆる「現代音楽」を作っている作曲家は
そういった意図で作曲をしているわけではありません。
ここで話題にしているのは、あくまで「劇作品における音楽表現としての無調音楽」です。)

更に、「驚愕」「恐怖」の感情表現に有効な楽器の奏法も数多く、
例えば、
ヴァイオリンをはじめとする弦楽器で同一音を弓で細かく刻む「”弓” トレモロ」といった奏法や、
詳述はしませんが「スルポンティチェロ」といった奏法、
「弱音器」をつけて演奏する弦楽器のサウンド、
などは緊迫した雰囲気を表現する際にもよく用いられ、
無調音楽と同じくSFホラー映画の背景音楽で少なくありません。

 


 

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