白でも黒でもない劇音楽

 

形容詞で表せる音楽は
音楽の性質として方向性がはっきりしています。
例えば、
「悲しい・楽しい・嬉しい」
などといった形容詞がテーマになって作られた音楽は
その表現もストレートであることがほとんどでしょう。

一方、
あえて「白でも黒でもないグレーのような性格を持たせた劇音楽」も存在します。
このようなタイプの音楽が登場する代表的なジャンルは
「不倫をテーマに扱った作品」
です。
諸々を承知で不倫をする「心境」もしくは「状況」などに対して
音楽をつけようとすると
「明るい音楽」「暗い音楽」
などといった単純な性格では表現が難しいためでしょう。

【補足】
演出意図次第では、
今を楽しんでいる当事者の一面的な気持ちに対して
明るい音楽をつけたり、
今を楽しんでいる当事者の一面的な気持ちに対して
俯瞰のまなざし」としてメランコリックな音楽をつける、
などといったことが可能ではあります。
さて、
「不倫をテーマに扱った作品」以外の例として、
白でも黒でもないグレーのような性格を持たせた劇音楽の例を一つあげておきます。
大島渚監督映画「天草四郎時貞」(1962年)
「前半 27:45」あたりと「後半 1:23:50」あたりに、
明るくも暗くもない、といった性格の不思議な音楽が付けられています。
弦楽器でハーモニクスのグリッサンドをしている音が特徴的。
(似たようなサウンドは、ラヴェル「ダフニスとクロエ」などでも聴かれます。)
グレーのような性格を持たせた音楽なので、
観客に想像と解釈の幅を与えています。
映画自体の内容もあり、
作品全体的に重々しい音楽と雰囲気が続きますが、
これらのハーモニクスによる音楽だけは
(明るくはなくも)軽さを持った曲調になっており、
他の音楽とは「対照的」な性格を持っています。

 


 

大島渚監督映画「天草四郎時貞」(1962年)

2022年現在、「U-NEXT(ユーネクスト)」でも観ることができます。
(視聴時期によっては、配信終了している可能性もあります。)

 

◉ 天草四郎時貞 [DVD]

 

 

 

 

 

ちなみに、
掲題の音楽は以下のCDに収録されています。
6分30秒もあり、単体の映画音楽としては長尺。
実際に劇中でも長く使われました。

 

◉ 真鍋理一郎の世界