登場人物の「セリフ」がきっかけで認識される状況内音楽

 

前回に引き続き「状況内音楽」の話題です。
状況内音楽の使い方には色々な方法が試みられていて、
劇作品の中で様々な工夫がされています。
それらの中でも今回は
「登場人物のセリフがきっかけで状況内音楽と認識されるケース」
の使用例を挙げます。

山本嘉次郎監督映画「花の中の娘たち」(1953年)
の前半、
登場人物「庄六」の家のお座敷で大人数で食事をしているシーンがあります。
そのときにフルートソロの楽曲が流されるのですが、
普通に考えた場合は
通常の劇音楽(状況外音楽)であると認識されます。
しかし、
食事の最中に庄六が、
「フルートをうちへ来ている学生が吹いているんだ」
などというセリフを言うことで、
フルートの音楽が
実際にその場で聴こえている音楽、つまり「状況内音楽」として認識されることになります。

音源自体(この作品ではフルートを吹いている人物)を
作品の中で見せていないケースでは
このように状況内音楽として認識されるための条件が出てくるというわけです。
結果的には初めから状況内音楽だったわけですが、
セリフなどの他の要素を出すタイミングによって
それが状況外音楽と状況内音楽のどちらとして認識されるかが
コントロールされています。

ちなみに、
後にも庄六の家のシーンでフルートソロ楽曲が使われます。
その際は、
「庄六の家に来ている学生が吹いている」
ということを観客は認識しているので
当然、状況内音楽として認識されます。