感情移入を狙った音楽
説明的な音楽のうち、定番のものは「感情移入を狙った音楽」です。
このテーマについては別記事にしています。
「感情移入を狙った映像音楽」
「時間帯を表す音楽」「情景を説明する音楽」
例えば「朝」のシーンでは
「時間帯を表す音楽」が比較的頻繁に使われています。
時間帯を表す音楽は状況を説明している音楽の一種であり、
映像だけでは時間帯が分かりにくい場面で音楽がそれを説明します。
厳密にいえば、「鳥のさえずり」は朝だけにきかれるものではありませんが、
観客が朝という時間帯を感じやすい要素であるため、
楽曲の中に「鳥の声を模した音」を使用することは
作曲面でのアイディアとして有効とされています。
(実写では「鳥のさえずりのSE」のみで済ませるケースも多い)
代表的な楽器は、フルートをはじめとする木管楽器。
木管楽器の音は古くから鳥の声と結びつけられており、
メシアン(1908-1992)などの20世紀以降に活躍した作曲家や
クラシックの作曲家も
木管楽器をメインとした上で
鳥の名前をタイトルに入れた作品を数多く残しています。
また、「時間帯を表す音楽」とも関連するのですが、
「情景を説明する音楽」も説明的な音楽の一種です。
視覚的刺激の代わりを担う「描写音楽」。
例えば、
雪のシーンで「ピアノの高音域による分散和音」や「弦楽器の弱奏トレモロ」
などを使うといった例は
多く先例があります。
場合によっては「効果音的な”音楽”」が使われることがあるのも
「情景を説明する音楽」の特徴の一つです。
「バトルシーン(アクションシーン)」についている音楽
説明的な音楽の他の例としては、
「バトルシーン(アクションシーン)」についているバトル音楽などが挙げられます。
「格闘」の音楽や「逃走」の音楽であったり、
バトル音楽にも様々なタイプがあります。
「バトルシーン」における作曲面での工夫としては、
短い単位での繰り返しを多用したり、
アップテンポにして緊迫感を出すなどといったごく基本的な手法から、
ジャズのハーモナイズなどでもよく使用される
「クラスター」と言われる2度音程ヴォイシングや
「明確なピッチの無いパーカッション」などを使用して
リズムやピッチを不協和に濁すことで、
それぞれのバトルシーンにマッチする雰囲気をつくりだす等、
そのアイディアには限りがありません。
説明的な音楽は、
「アニメーションは映像そのものから得ることができる情報が実写に比べると少ない」
という理由から、
やはりアニメーションで多く要求されるケースが多くなっています。
参考記事 :「アニメーションにおける音楽演出の傾向」
モンタージュ
モンタージュの手法がとられているシーンに付加された音楽も、
説明的な音楽の一種と言えます。
「モンタージュ」という言葉はいくつかの分野で使われますが、
映像表現で用いられる場合は、
「編集におけるカットとカットの繋ぎ方といった工程を基礎として、
その編集によって心理的な効果を狙った手法」
のことです。
例えば、
一人の人物を映した後に、
その人物とは関係性のない家族団欒の映像に切り替わるとします。
そうすることで、
最初に映した人物の「孤独感」や「寂しさ」
などを視聴者が感じる可能性もあります。
どちらか片方の映像では表現できなかった効果が生まれています。
ポイントは、
「最初に映した人物が寂しさを出す演技をしたわけではない」
という点です。
モンタージュの用例はたくさんあるので、
これはあくまで一例です。
モンタージュの箇所では、
「セリフが存在しない、比較的短いカット」
である例が多く見られます。
音楽面についてですが、
インストゥルメンタル音楽が付けられることもあれば、
場合によっては、
「その映画の主題歌」が付けられることもあります。
また、
通常の映像作品では音楽が映像より主張する演出は少ないのですが、
モンタージュの箇所では
音楽が「主」で映像が「従」になるケースも見られる点が
音楽面での特徴の一つです。
クロード・ルルーシュ監督映画「男と女」(1966年)は
モンタージュが取り入れられた代表的な作品。
ちなみに、
「カット・バック」という用語は「モンタージュ」と”ほぼ”同意義だと捉えて良いでしょう。
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説明的な音楽における懸念点
説明的な音楽は効果的な演出を期待できますが、
用いられ方によっては
映像作品を台無しにしてしまう可能性があります。
例えば、
映像を観れば充分に伝わってくることを
わざわざ音楽でも表現する必要はありません。
(時として過剰な演出が求められるケースはあるので
意図を持ってされているのであればアリでしょう。)
また、
「(実写で)登場人物が怖い対象物を見て驚くのに合わせて驚愕の音楽を入れる」
という場合に、
音楽で先に説明してしまうことは良くないとされています。
通常、人間が何かを見て驚くときには
見たと同時に驚くのではなく
「見て認識するまでのわずかな時間」があるはずなのですが、
見た瞬間に音楽が鳴ってしまうと
音楽で先に説明してしまっていることになります。
「それは、伏線で…」
というわけにはいきません。
伏線をはるには遅すぎるんです。
以前にドキュメンタリー番組で
とある演出家が役者を指導するところが取り上げられていたのですが、
その時に演出家が次のようなことを言っていました。
キャッチボールになっていない。」
そして、それを改善する策として「即興のレッスン」をしていました。
即興だと、相手のセリフをよく聞いていないと返せないので
セリフ尻を覚えて機械的に返すことはできない。
結果として、日常生活に近いキャッチボールになるそう。
やや話題がそれましたが、
説明的な音楽で状況を先に説明してしまうのは
相手のセリフ尻を覚えてセリフを言ってしまうことと
どことなく共通点を感じます。