劇作品と音楽との対位法

本記事は以前に「リアルサウンド」で執筆した自身の原稿をもとにしています。

 

劇作品の内容と全く異質の音楽をつけることで感情移入を拒否する手法があります。
「非感情移入(シオン)」
これによって生まれる違和感で、
かえって映像の内容が浮き立ってくる効果があります。

「異化効果」と言われることがあれば、「映像と音楽との対位法」とも言われます。

劇作品と音楽との対位法

感情移入を狙った映像音楽」は多く聴かれますが、
あえて「映像とは異なること」を音楽で表現するケースもあります。
例えば、
「緊迫したシーンに明るい曲調の音楽を流す」
などといった例。
黒澤明監督映画「野良犬(1949年)」の
クライマックスシーンなどでも見られます。
この演出は「感情移入を拒否する」ことであえて違和感を生み、
ドラマを浮きだたせる「映像と音楽との対位法」という手法であり、
作曲技法としての「対位法」とは別に、
正統派ではないですが伝統的な映像音楽の表現として
様々な映像作品の音楽で用いられてきました。

また、
「少しばかりの叙情的な曲が合いそうな場面で、極端に切ない曲を流す」
などといった、
「極端に飛躍したイメージで音楽をつける」
といった例も「劇作品と音楽との対位法」の一種です。
こちらは、コメディ色の強い映像作品でもよく見られ、
登場人物の気持ちが浮き沈みする様子をユーモアたっぷりに描く際などに
意図して使われることも多い技法となっています。

その他、
「動きの少ない映像に対して動きのある音楽をつける」
という例も対位法に該当しますし、
これまでに様々な表現が探られてきました。

アニメーションの映像表現と対位法

映画において、実際の人間が演じるものは、
人の表情などに微妙なニュアンスがありますので
瞬き一つとってもそれが「表現」になります。
したがって、極論として音声が全く無くても観ることができてしまいます。
一方、アニメーションなどではそういった表現が少ないため、
あえて説明的な音楽をつけるように演出されていることも多くあります。
これは効果音にも言えることで、
やはりアニメーションになれば
大袈裟な効果音を要求される傾向があります。
このように
「映像そのものから得ることができる情報が実写に比べると少ない」
という理由から、
アニメーションで対位法を使うことは比較的難しいとされています。

参考記事 :「アニメーションにおける音楽演出の傾向

 


 

◉ 野良犬[東宝DVD名作セレクション]