中平康監督映画「密会」(1959年)
の劇音楽より
いくつかの音楽表現について触れていきます。
音楽のないラブシーン
本編がスタートしてまもなく、
紀久子(桂木洋子)と川島郁夫(伊藤孝雄)とのラブシーンがあります。
それも、林の中で横たえて横たわって。
この約7分もの間、ずっと音楽はありません。
したがって、
お互いにささやき合うセリフが
ニュアンスまでも良く聞こえるように工夫されています。
本作では、
このシーンで紀久子がつぶやいた愛の言葉が
後々、彼女を苦しめることになります。
重要なセリフだったからなおさらのこと
言葉の聞き取りやすさは必要だったと言えるでしょう。
以前から、
特に洋画を中心に
「ラブシーン、特にベッドシーンには音楽を入れない演出も多い」
と言われており、実際に数多くの作品を観ていてそれは感じます。
(もちろん例外はありますが…。)
1つの部屋で2つの状況内音楽
物語開始20分程度の場面、
郁夫の自宅のアパートでは
同居している妹の英子(峯品子)が
「茶色の小瓶」を聴いています。(状況内音楽)
通常の状況内音楽の演出はこれだけの場合が多いのですが、
この場面では
”途中から” 英子が音楽に合わせて歌い出します。(もう一つの状況内音楽)
流れている音楽に合わせて歌っているだけですので
音楽の種類は一種のみです。
しかし、
「後者(英子の歌)は、郁夫との会話がひと段落したことを示す」
という違いがあり、
「1つの部屋で2つの状況内音楽が使われている」
と考えることもできるでしょう。
「授業の開始と終了を告げるチャイム」と「設定」との関連
紀久子には、大学教授の夫である宮原雄一郎(宮口精二)がいます。
自宅も豪邸です。
その自宅の時間報告では
いわゆる「キンコンカンコン」と言われている、
「授業の開始と終了を告げるチャイムで知られる音楽」
が使われています。
この音楽は
一般家庭で使用されることも珍しくありません。
一方、
あえてこの映画で聴かせた意図として
「雄一郎が大学教授である」
という設定と関連を持たせることを狙った可能性は高いでしょう。
「キンコンカンコン」は、元々は「音楽」。
しかし今では、
音楽というよりも
それ全体を「効果音のようなもの」として認識している方も
多いのではないでしょうか。
老婆の「江戸の子守唄」による対位法
ラストで、罪を犯した紀久子が捕まります。
その際、捕まる現場の緊迫した様子とは対照的に
老婆が歌っている「江戸の子守唄」が聴こえてきます。(状況内音楽)
これは、
「劇作品と音楽との対位法」
と言えるでしょう。
亡くなった(一生の眠りについた)郁夫のことを
「子守唄」で暗に示しているのかとも思いましたが、
それは少々飛躍しすぎな気もします。
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