複数シーンで共用される状況内音楽

 

状況内音楽」とは、
「ストーリーの中で実際に聴こえている音楽」。
状況内音楽は「一つのシーンのみ」で使われることが多い傾向があります。
例えば、
「店の中で店内BGMがかかっているシーン」の場合は、
シーンとしてその店を出てしまえば
状況内音楽としての店内BGMは聴こえなくなります。
(「店の別階」や「店の外」に音が漏れる可能性はありますが…。)

一方、「複数シーンで共用される状況内音楽」というものも時々聴かれます。
2015年に公開されたとある時代劇映画では、
屋外で横笛を吹く人物を映して
「状況内音楽としての笛の音である」と観客に説明した後、
「屋外の別のシーン」を映し、
遠くから聴こえてくる笛の音を状況内音楽として残し続けていました。
加えて、笛が聴こえる範囲にある屋外の別のシーンをさらに追加で用いることで
複数シーンで共用される状況内音楽を成立させていました。
つまり、
「音源(横笛を吹く人物)が映ったシーン」「シーンA」「シーンB」
という3つのシーンで同じ状況内音楽が共用されたことになります。


ここで問題になるのが、
「音源と各シーンとの距離感」です。
その時代劇映画では、
屋外で横笛を吹く人物を映しているシーンと
それ以外のシーンとでは
音量差をつけることで音源と各シーンとの距離感が表現されていました。

【補足】
音源が映っていない各シーンでは
その横笛の音を小さく聴こえさせるのは当然と言えば当然です。
そうでないと、
距離感を感じないために
「状況外音楽(通常の劇中音楽)」と区別がつきにくくなってしまうからです。

一方、「シーンA」「シーンB」では
それぞれ同じくらいの音量で状況内音楽が流されていたため
それぞれが音源とどれくらい離れた位置にあるのかまでは
音楽演出されていなかったのです。
もちろん、
実際の映画では「シーンA」「シーンB」のそれぞれが
音源から同距離という設定だったのかもしれません。
(図例は参考に「シーンB」を遠くに位置させただけです。)

このような音楽演出は、
「各シーンを一瞬で切り替えられる」という特徴を持つ
映像作品が得意とする演出です。

今回のジャーナルで伝えたかったのは、
「状況内音楽が使用される音量などでも、映像作品の設定としての距離感を表現することがある」
ということ。
このようなことを踏まえておいて観賞すると
作品を立体的に捉えることができるはずです。