今回は、
恩地日出夫監督映画「伊豆の踊子」(1967年)
を題材に
「ふたりの気持ちをたったひとつの楽器で表現した音楽」
について取り上げていきます。
ラスト2分20秒あたりから
太鼓の音がフェードインされてきます。
映像はすでに下田から出発している船の上であり、
薫(内藤洋子)のことを想って泣いている川崎(黒沢年雄)が
映し出されます。
その後、下田に残った薫がお座敷で太鼓を叩いている場面へ変化。
この時点で
太鼓の音は現実にその場で鳴っている「状況内音楽」へ変化したことになります。
ラスト2分20秒、
太鼓の音がフェードインされてきたときというのは
状況内音楽とも状況外音楽とも解釈できそうなところ。
というのも、
お座敷の場面へ変わったときに
編集上、太鼓の音量を意図的に上げているからです。
しかし、
お座敷で叩いている太鼓の音が
すでに下田から出発している船の上にまで聴こえているとは考えにくく、
現実音としての波の音もミュートされている。
この2点から考えると、
川崎が薫の叩いている太鼓を想い出している心の音、
つまり「想像上の音楽(状況外音楽)」として太鼓を聴かせておいて
それをお座敷の場面で現実の状況内音楽へ移行させた、
と考えることも可能。
筆者は、後者なのではないかと考えています。
ボロンボロンに泣いている川崎と、
一滴の涙も見せずに一点を見つめて淡々と太鼓を叩き続ける薫。
どちらも相手のことを想っていますが、
まったく異なる映像内容で
ふたりの気持ちが表現されています。
太鼓による音楽でも、
◉ 川崎との別れを振り切るかのように一心に叩く、薫の気持ち
これらのような
タイプの異なるふたりの気持ちを
たったひとつの楽器で表現した、
と考えていいでしょう。
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