静かな持続への異質な音要素のくい込み

 

今回は、
蔵原惟繕監督映画「愛の渇き」(1967年)
の劇音楽について触れます。

この映画では、
「極めて静かな持続に対して、異質な要素が急に挟み込まれてくる音表現」
が多く出てきます。
「ししおどし」じゃないけど…

例えば、

◉急に勢いよく車が通り過ぎる音(2箇所)
◉急に勢いよくバイクが通り過ぎる音(1箇所)
◉鳥の不吉で鋭い鳴き声(4箇所)
◉海辺での叫び声(1箇所)
◉送別会(解散式)でいきなりかかる「運命交響曲」(「状況内音楽」として)
◉ラスト直前、悦子(浅丘ルリ子)の叫び声
◉ラスト直前、三郎(石立鉄男)が水溜りに落ちる音

この映画では、
音楽が非常に少ない上に
日常音も意図的にミュートしている演出箇所が多くあります。
したがって、
なおさら上記のような「異質な音要素のくい込み」にハッとさせられます。
例えば、
「急に勢いよく車が通り過ぎる音」を使う直前では
通常聞こえるはずの「車が近づいてきた音」をミュートしています。
すぐ近くを通り過ぎるときのみ、音声を聴かせるためです。

映画の中のセリフで
「奇妙な無風状態」
ということばが出てきます。
繰り返しますが、
音演出に関しても
奇妙な無風状態だからこそ
時々そこに挟み込まれてくる強烈な音に目を覚まさせられます。

こういった表現って、個人的にはかなり好きなものです。
映画作品や音楽作品では
ある状況を説明しなくてはいけない場合ももちろんありますが、
「それ何なのかな?」
というように人を不安におとしいれる部分があると楽しめる作品もある。
「まあ、そういくよね」
っていうのが常だと面白くありません。

 


 

蔵原惟繕監督映画「愛の渇き」(1967年)は
2022年現在、「Amazon Prime Video」で観ることができます。
(視聴時期によっては、配信終了している可能性もあります。)

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◉ 愛の渇き