グレゴール・ジョーダン監督映画「ケリー・ザ・ギャング」(2003年)は、
1871年のオーストラリアを舞台に
実在したアウトロー「ネッド・ケリー」の生き様を描いたヒット作です。
本ジャーナルで何度も話題にしている「状況内音楽」に焦点を当てて
この作品の音楽についても掘っていきます。
「ケリー・ザ・ギャング」では状況内音楽が4回出てくる
劇中で一番初めに状況内音楽が出てくるのは
前半のパブで生演奏されているシーン。
「バンジョー」「フィドル」「ギター」がスクリーン内で確認できます。
この際の映像では、
↓
「パブの外でのシーン」
↓
「再度パブの中でのシーン」
といった順番で移り変わり、
全てのケースで状況内音楽であることには変わりありませんが、
フレーム内の音とフレーム外の音の自然な移り変わりを使い分けて演出されています。
1度目のパブの中でのシーンでは
「踊ったり飲酒をしている人々のBGM」として音楽が響きます。
一方、
再度移されたパブの中でのシーンでは
演奏者と楽器も大胆に映し出すことで
「音楽を主体に聴かせている」といった部分でも、
楽曲はずっとかかりっぱなしであるにも関わらず
「映像と音楽とのメリハリ」が確認できます。
2度目に状況内音楽が出てくるのは物語の後半。
今度は「フィドル」「ギター」「マンドリン」がスクリーン内で確認できます。
ここでも新たな演出がされています。
「状況外音楽」として使い始めた楽曲の途中でパブの中を映し出し
自然に状況外音楽から状況内音楽(フレーム内の音)へと変化させる。
更にその後に
映像がパブと全く関係のないシーンに移ってからも
数秒間その音楽を使用することで
再度、状況外音楽へと変化させています。
このように、
次のシーンへ少しだけ音楽を残し「時間経過」を表現する手法を
業界用語では「こぼす」「流し込む」と呼びます。
3度目に状況内音楽(フレーム内の音)が出てくるのは
またパブであり、
「フィドルのソロ」による演奏です。
そのすぐ後に4度目の状況内音楽(フレーム内の音)が確認でき、
今度は「コンサーティーナのソロ」による演奏です。
ずっとパブの中の映像が続いているにも関わらず
コンサーティーナの演奏がフェードアウトされて状況外音楽が入ってきます。
くって入ってきた緊迫した状況外音楽が
「衝撃のクライマックスを暗示させる役割」を担っているとも解釈できます。
状況内音楽で使われた数々の楽器
状況内音楽で確認できた数々の楽器をまとめてみると、
「バンジョー」「フィドル」「ギター」「マンドリン」「コンサーティーナ」と、
どれもアイルランド音楽で頻繁に使用される楽器群であることが分かります。
本編でネッド・ケリーも含め銀行強盗(ケリー・ギャング)となった4人は
全員が「アイルランド人の開拓民の息子」という設定であり、
細かい部分で設定との関連性を持たせているのは間違いないでしょう。
また、状況外音楽の数曲の中にも民族楽器が取り入れられており、
「映像ではオーストラリアの広大な土地を幾度となく映し、
音楽ではアイルランドを意識させる要素が強い」
といった部分でも物語の設定の軸を確立させています。
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